「おいどん」とは大山昇太のことである。同時に足立太のことでもあるかも知れない。大山さんは「男おいどん」の、足立さんは「大四畳半大物語」のヒーローです。どちらも松本零士の漫画。
下宿のおばさんが大山さんには「はさみを貸しちゃダメ!」と言って、階段を駆け上り部屋の戸を開けると後の祭り。一張羅のズボンとセーターがちょん切られて夏仕様になっているのだ。
ろんぐろんぐあごー。
高校時代にぼくもやりました。ジーパンを半ズボンに切断。その時は端切れの方の裾を縫い閉じ、なんだかとても見苦しくて貧しい雰囲気の袋にして、しばらく持ち歩いていました。
そして現代。土曜日の昼間。台所の何でも鋏を手に取ったぼくはおもむろに行動に出たのだった。確かメーカーは「シピー」?フランス製だったかな?のジーンズ。太ももから膝にかけて引き連れて破れているのは、センスの良いファッション・メーカーのつけたものではない。
中田ヒデやらなんだかゴージャス系のオネエサンたちが好んではいている破れ傘のような端切れズボンは偽物だけれども、ぼくのは本物。日光いろは坂のワインディングで転んだときの記憶。
快適な夏の休日のこと。恋人と二人乗りで日光へ向かう途中ころんだ。
その頃は高速を二人乗りできなかったので、暑苦しい国道4号線を大型トラックの群れなどに混じって北へ来て、緑の杉並木を抜けてようやく涼しい高原に近づいたときのこと。
いいリズムで右へ左へひらひらとカーブを遊んでいるときに突然道の真ん中にオイルが撒かれてあった。それはセンターラインのように黒い油の線を描いていた。
それに乗って滑って転んだ。大してスピードは出てなかったのでけがは無し。バイクも無傷。彼女も大丈夫。すると人がすぐに寄ってきて助け起こしてくれた。
「悪質でしょう。」と起こしてくれたライダーは半ば憤っていた。警察を呼んで待っているところだと言っていた。どうもわざとオイルを撒きながら逃げた車がいるらしい。そこからしばらく登るまで転んだライダーたちが道の脇に座っていたり、オイルの撒かれているところを避けるように誘導してくれたりしていた。
中田やオタクたちのズボンの穴に装飾的な意味があり思い出はないかもしれない。ぼくのズボンには歴史があり装飾的意味はない。そういうわけで切断。この夏の半ズボン。
またこの夏の歴史を歩み始めるのだ、おれのジーンズ。ジーンズ野郎。