昨晩、宿に着いてから小休止だった雪が、朝になってまた降り始めた。
宿の人に聞いたら昨日竹生島行きの船は風のために欠航だったそうだ。今日の雪。もし船が出るならば奇跡のような竹生島の風景が見られるだろう!
船の時間が10時30分なので、時間まで長浜城歴史博物館で「竹生島ナニヤラ展」を見た。ビデオ資料に「太鼓踊り」の項目があったので選択して視聴した。
岩手県で鹿踊りを見て以来「太鼓踊り」にはとても興味がある。いろんな地方に残っているであろう無名の踊りには出会ってみたいものですわいなぁ。が、イントロダクションばかりでちっとも太鼓踊りが始まらないので途中で出て行かざる負えなかった。
なにしろ竹生島行きの船の時間だ。
館の受付の人に「竹生島に行ってきます。」と、断言したら、「とりあえず電話で聞いた方が良いですよ」というので電話してみた。
「竹生島に行きたいのですが、船は出ますか?」
「今日は欠航です。」
はいはい。予想通り。爆弾低気圧の雪。
頭上で途方もなくでかい玉子のような雪の固まりが割れて、そのかけらがせ〜ので落ちてきているような激しさ。
悔しいので、船着き場に行って写真を撮りまくったが、なんの意味も効果もなかった。やれやれ。
豪雪の路面にアルファロメオを乗り出した。案外走れる。だんだん慣れてきた。慣れてきた頃が危ないので、他の車に迷惑をかけながらそろそろ走った。重苦しい灰色の空。放射状の放物線を描きながら窓を打つ雪。
正確にどこにいるのか分からないので、地図でどの道を行ったらいいのかわからないし、曲がれといわれても曲がらなかったり、曲がれといわれていないのに曲がったり。
ウインカーも点けて左に曲がりかけているときに、ナビに「左」とか言われるとちょっとムカッとくるね。
「わかってる。わかってるってば。」
琵琶湖の北の頂上に突き出た葛籠尾崎から竹生島を見てやろうと思ったが、集落をまわらない道は除雪もなく、生き埋めになりそうだったので途中で引き返した。つくづく竹生島に縁のないオレを実感させられるのだった。
仕方がない。この後は京都へ向かうので湖岸沿いに南下。次の岬、海津大崎は通る車もしばしばあり雪に轍が出来ていて何とか通行出来る。
あきらめると空が明るくなってきた。薄い雲が広く光り始めると、湖上遠望の竹生島にかかっていた白雪のベールがサァと開いた。
「アレじゃないか?」
「竹生島!?」
ゆらゆらと凪いだ湖面。葛籠尾崎の半島の先に、雪を被った森の小島が顔を出す。哀れなアルファロメオのふたりに、天子さまがベールをちょいと持ち上げてくれた。これも日頃の行いの所為かニャー?
見た見た。撮った撮った。こんなに天気がいいのに何で船が出ないんだろう?ん?そうだ次の便は出るかも知れない。一旦長浜に戻ったらどうか?と、思ったがただふたりの客のため、船を出してくれるとは思えない。一瞬見えていた竹生島はすぐに雲の向こうに隠されてしまった。
冬の光線の移ろいは忙しい。見る見るうちに水墨の世界をバルビゾン派に変貌させたかと思いきや、ついにマニエリズムの世界に包んでみせる。
この半島の湖岸の道は、桜の並木が続いていて春になったら見事な眺めになるだろう。けれど、この古びた木立に苔の色にも捨てがたい美しさがある。あんまり綺麗なので苔の写真を撮り続けた。
いつかこの桜の風景を、逆に竹生島から観てやるというのはどうだろう?
まあ今年とは言わないが、いつかまた春の日にね、来たらいいね。