夢の話です。上野のアメ横、三つ叉になったセンタービルのあたりの雑踏。
S氏がガード下の店を覗き込んで買い物中、一緒にいたHさんが帰ると言いだし歩き始めたので、ぼくは慌てた。電柱の脇に置かれた古雑誌の束のような大きさの荷物(なんだこれ、重いな。)を持って「これ忘れてる」と追いかけようとしたら荷物を横から引っぱられた。
「こら、ひとの荷物持っていくなバカ」
急にバカと呼ばれカッとなったが、それは横に停めた黒い八百屋自転車に荷を積んでいる漬けもの屋の物だった。ひと言も返せない。どおりで重いと思った。
人の流れ。雑居ビルの二階のヴィジョンに流れる『ムーンライダース再結成』の電飾文字。東北復興のために一度きり再結成ライブをやることにしたらしい。来月のノーニュークスライブにはYMOやクラフトワークも来る。これはチケットを買っておかなきゃ。
ポケットを探ると財布を忘れていた。財布どころか鍵もハンカチもiPhoneも小型カメラもない。カバンも持たず全くの手ぶら。仕方がないのでS氏に借りようと頼んだら110円しか持ってない、という。
110円あればとりあえず銀行でお金が下ろせる。銀行へ行こうとよく見たら100円玉と5円玉二枚だった。銀行に行って5円玉に文句が出るとイヤな気分なので先に10円に両替して貰おうと交番に行った。
交番で5円玉を見せると
「あれ?これは穴が空いているけれど5円玉じゃないですね」と言う。そんなバカな?とよくよく見ると穴の周りの柄もすべて透かし彫りになっている。金色堂の華鬘(けまん)のごとき透かし彫りの迦陵頻伽(かりょうびんが)の硬貨だ。
そのまま巡査が硬貨を指先で摘みながら表に出る。交番の軒先の水呑み噴水の上に横向きに設えられた手水鉢の模様にあてるとピッタリ同じだった。
「これは中国の古銭ですね」
「ええ?あ、ホントだ!」
手水鉢には模様のようにいくつもの中国の古銭が埋め込まれていて、その中のひとつに不思議とピッタリ同じだった。