堤防の道を歩いている。右に産業廃棄物など集める工場。錆びたトタンの屋根と壁。青い空。春風に煽られる廃棄物の埃。金属。石膏ボード。紙のようなもの。プラスチックのようなもの。発泡スチロールのようなもの。大きな鉋屑のようなもの。マスクをした人間が持ち上げたり下ろしたり。
しばらく行くと四角い大きなコンクリートの建物。建築中で放棄されたのか、廃墟なのか、壁が剥ぎ取られて窓枠もない。打ち放しの灰色にまだらに濃緑の苔が生している。二階のスペースを廻ってみていると、なかなかいい感じの小刀を並べている店があった。
外から見ていると、知らぬうちに女中が隣にやってきて気安く中へ案内する。こちらもなんとなく安堵して上がり框に腰掛けて、その脇差しぐらいの日本刀を手に取った。白い柄巻きに金の金魚の目貫。柄頭がなんとなく錆びていてザリザリするのが難点だった。
刀身を撫でていると、時々指先が冷たく濡れている。
他にも店があるからと、連れられて隣で合口を一本見せて貰う。また隣では工作に使うような肥後の守を見せて貰ったが、だんだんいらない気持ちが強くなった。最初の店に戻ってもう一度脇差しを見せて貰ったら、刀身がアウトドア用のナイフになっていて落胆した。
「つまらないから帰る」というと、
「下ですよ」と言われた。
思い出してみると、建物は中央に大きな吹き抜けがある表参道ヒルズを、そのまま廃墟にしたような仕組みだった様に思う。