うちは里山とか山とか云うほどでもない、ちょっとした小高いものに囲まれた、谷というほどでもない谷間にあります。その狭い谷戸に住宅がギュウギュウ。お金持ちのお弁当の賑やかなおかずみたいにギュウギュウ。貧乏なうちの弁当は揺らすたんびに端に寄ってかさが縮まってしまったりしますが、そういうコトの無いようなレベルです。
そう云う住宅事情なので、常に屋根越しにではありますが尾根が眺められる。尾根には遠い桜がポツポツと咲いていて、ぼくはそういう風景がたいそいう好きなのです。誰も行かないような小山の尾根や中腹の桜。群れを成してないので花見に行くほどでもない。
ぼうと咲いてはらはらと空の高みに花びらを降らせている。そういうのがクルマに降り積もり、こびりついて汚くなったりするけれども、なんかいい。
これは窓から崖の向こうに垣間見える山桜。山桜の白花びらと葉の明るい緑の混ざり合いはやっぱり明るい配合でとてもいい。
ピンクの桜と木の部分の茶色の組み合わせはちょっと嫌な時がある。そんな時幹に灰色を帯びた苔があると嫌味を上品な色彩に転化させてくれる。
いきどまりのなんということもない桜。光を受けて暗い林の前に立っていると、なんだかこれ一本がひとつの霊であるようにも思えるから桜という木は不思議だ。