1986年ごろ、オートバイ免許取り立ての夏、旅をした。
東京世田谷区下馬から山形県の蔵王を経て新潟。新潟港からフェリーで佐渡島に渡って島を一周し、それから直江津?に渡って軽井沢の友だちの別荘に行った。それが最初のツーリングだった。
ろくな写真機を持ってなかったのでM師に言うと快くカメラを貸してくれた。M師はプロのカメラマンで普段はライカを持ち歩いていたが、それが大体大仰なカメラバッグなんかに入れて無くて、パン屋の紙袋の草臥れたやつとかで無造作に持ち歩いている。
バンカラというよりはフーテンな感じで、いまふうに言うならば悪オヤジ。チョイはつかない。貸してくれたカメラはコンタックスRTSで、ぼくはニコンとキャノンとライカしか知らなかったから「??」だった。一応、一眼レフの使い方は高校の授業で習ったので大体の操作はわかった。
あれれ右の方にスペクトルのような反射が、、、、コダカラーのリバーサルフィルムKRを数本、無いお金を振り絞ってヨドバシで買っていった。現像は堀内カラー。
あがってきた写真はとても素敵だった。露出がダメだったりぶれまくっている写真がいっぱいだったけれども、まともに写っていた写真はカリカリに硬い輪郭で、とにかく色が濃厚。思い出を残しておくにはこれしかないという色だった。
あの頃は写したものすべてが明瞭に残るように、とにかく絞り込んで奥の奥までピントが届くように撮っていた。絞りすぎてボロボロの写真も面白い。
そのカメラに付いていたのがCarl Zeiss Distagon 2.8/28。ずっと25mmと思っていたけれども、何年か前に会ったときに「あの時のレンズは良かった」と訊ねたら「25mmは持ってない」と言っていたので28mmだったのかも。
というわけで今ごろ思い出して買ってみた。広角ディスタゴン28mm。
おおお〜〜、昔と同じ色。おおお〜〜〜。ちょっとアンダーにすると色が特盛りになる。
キャノンのEOSマウントはまあアレコレの理由で、マウントを介してアレコレ他社のレンズを装着できる。ニコンやペンタックスや多分ライカ以外は装着できるのではないだろうか?(正確にはよくわからない。興味のある人は自分で調べてくんろ)フルサイズのセンサーで過去の遺産を楽しめる。
かつてキャノンがぼくの愛機だったT90のFDマウントを捨てて、EOSというオートフォーカスのマウントに進化していった時は、かなり恨めしく思った。「な〜にがオートボーイだ。ピントぐらい自分で合わせりゃいいじゃねえか」とか憤慨したものだ。
ずっと昔、東京に出てきたばかりのぼくにカメラマンの徒弟をやっていたSは「キャノンのレンズの接点はずっと将来のことまで考えて、今は使っていない接点まで設計してある」からスゴイ、偉い!と力説していた。
だけどそんな将来性はポイ捨て。
(余談だけど日本のゲーム機は常に新しい機種を買えと迫ってくる。おれはニンテンドー64が好きだったぜ。64でもファイヤーエンブレムやドラクエぐらいなら今のバージョンでもできそうだろう?なぜ昔のフォーマットをポイポイ捨てちゃう?それが産業?)
ディスタゴンは昔のレンズなのでオートフォーカスは付いていない。ピントなんか自分で合わせりゃいいぢゃねえか。
ぼくは必ずしもピントが合ってなくても面白い写真はあると思う。ぶれていても面白い写真は面白い。とにかく写っていなくてはならないモノが写っていれば面白い。像が流れるとか解像感がどうとか周辺光量がどうとか画素が粒子が滲みがロウパスフィルターが、そんな話ばかりして面白いか?
おやじがデジカメを使うようになって画質ばかり整えようとするようになったように思う。オレももっと女子のように「カワイイ」がなにかを極限までわかるように勉強した方がましなんぢゃないか?
てなことを考えながら、お寺と海辺でレンズの試し撮りしながら散歩してみたのさ。