散歩の折に見つけた「カバノン」という倉庫のような海の家で、「渋さ知らズオーケストラ」のライブがあるのでてくてく出かけた。久しぶりに快晴の真夏の陽気の昼下がり。暑い砂を踏みながら海辺を歩いた。
材木座の海はガラガラに空いていて、遙か滑川の向こう側を眺めるとうわ〜〜っと人で溢れている。床屋ハブタの話では、昔は材木座から由比ヶ浜の終わりまでずら〜〜っと葦簀張りの海の家が並んでいて、浜辺はもっと広かったが海水浴客で溢れていたそうだ。
逗子マリーナが出来てから潮の流れが変わって砂が来なくなったという説もあるけれど、全国に数え切れないほどある大小のダムや堰堤で砂を堰き止めているせいもあるだろう。毎年、どこやらからトラックで砂を大量に持ってきて偽物の砂浜を盛り上げなければならない鎌倉の海のことを、ここに住む前は新聞で読んで苦々しく笑ったものだった。
滑川河口で造船されたという実朝の宋の国への船は、もっとずっと沖まである砂浜のその向こうに座礁していたのか?どだいこのような遠浅の海で船を造ることを考える方が無理がある。無理があるから夢があり、破れる夢だから儚く面白いのか。
てくてく、てくてく。
圧倒的に女子のグループが多い。夏休みの男子は一体どこに行っちゃったんだ?
カバノンに着くと、ライブハウスの表のBARコーナーで渋さ知らズオーケストラの差配の不破氏が飲んでいる。ずっと飲んでいて、開演時間から三〇分近く遅れて会場に入ってきてそのままステージにあがると、楽屋からぞろぞろ楽団員が出てきて演奏が始まる。
さすがにO-Westの時とは違って音がグワングワン跳ね返りまくる。イメージ的にMOGWAIよりも爆音。舞踏も踊り子もダンサーもガンガンにダンス。夕方前からアルコールの入ったオーディエンス(?)もだんだん切れてきて大盛り上がり。
途中一時間休憩。リトルタイランドに行ってタイ料理でお昼ご飯。生春巻きとかスパイスの利いたナニヤラかけご飯など。
ステージ後編はさらに盛り上がる。海水浴ついでの客など裸にでかいリュックを下げて会場を徘徊しながら踊っている。そういうスタイルが流行りなのか?相変わらず音響は混沌としていてソロ以外は何を吹いているのかわからない。だけどなんか面白い。爆発している客スペースの中央あたりにそこだけ真空のような雰囲気があって、不思議の国のアリスのような少女がいつのまにか立っている。ちらちらと気になっていたけれどいつのまにか消えてしまった。兎の穴に落ちたのかも?
それからラストに向けて爆進。最後はつられて「本多工務店のテーマ」の歌を歌ってしまった。
曲が終わると差配の不破氏はカバンを持ってステージを降り、海への扉を開いて外に出る。そのままBARに行って最初に見たときのように飲んでいる。騒乱のステージを夢のごとく放りだして雲散霧消させてしまう見事な技。お目当ての川口さんは相変わらずダンディで、前半はメランコリックなハーモニカの演奏を聴かせてくれたけど、後半は団扇であおいだり汗を拭いてばかりいた。
あとには何事もなかったような砂浜に半月が映えているばかり、とはいかずBARコーナーではポールダンスが始まって、店のものがしきりに見て飲んで食べて行けと進める。
はてはて?見上げるような棒に登って出初め式の梯子乗りのようにぐねぐねと踊っているけれど、ポールダンスって重力にもっと負けた踊りではなかったか知らん?
由比ヶ浜の海の家は軒並み22時まで営業しているようなので、この季節なら街の居酒屋へこもるよりはよほど気分がいいだろうと思いながら横目に見て渚を帰った。
夜中、いつのまにか耳の奥に入って出られない星のごとき音が鳴り止まずうるさくて困った。