「ABARTH」と書いて「アバルト」と読む。ぼくはなかなか読めず、今でも頭の中では「アバルス」とか「アバース」とか思ってしまって、最後、舌の先っぽが「す」の形になるのだ。そういう車に何年か乗っていた。
FIAT RITMO ABARTH 130TC。普通はリトモと呼んでいた。リトモはイタリア語で、リズムの意味です。数字は単刀直入に130馬力を表していて、その頃日本車は280馬力自主規制みたいなことをやっていたくらいだから、まったく馬力的には劣っている車だった。
後ろのサスペンションには板バネが使われていて、あとで気がついて驚いた!ガタガタ道だとぴょんぴょん跳ねる。ぴょんぴょん跳ねるからそれでリズム(体操)?かと思うくらいだった。
高速道路を走っていておおむね100km/hを超える辺りからガタガタと振動しはじめる。その振動は想像上120km/hくらいで絶頂を迎える。なにしろハンドルからダッシューボードまで振動で分解するのではないかという感じ。
宇宙空間をワープ航法に入る前の瀕死のエンタープライズ号でも運転しているような気分になる。
しかし、ヤマ勘で130km/hを超えると振動がやんでシュ〜〜〜ルルルルル。実際はたくましい排気音が轟々いっているけど。これぐらいになるとアクセルの加速ポンプにも瞬時にエンジンが反応して楽しい楽しい。
ある日、万座温泉への長く楽しいワインディング。
前に出稼ぎ?アジア系労働者の憩いのマイクロバスがとろとろ塞がってしまった。追い越し禁止の黄色い線が長くつづいてエンジンが腐ってしまいそうだった。急坂の登りのカーブを過ぎたところで白い破線になったので、アクセルいっぱい!「加速ソーチ!」ブロロ〜〜ンで追い越した。
追い越したはいいけれど前に出たところで急にトルクが抜けて加速しなくなった。そのままトロトロになってマイクロバスの前でウィンカーを出して左に寄せて停まった。
彼らはプープーと安いクラクションで非難轟々の目線をしながら抜いて行った。
ごめんネーごめんねー。
何かが壊れた感じもしなかったし、オイルも吹いてない。アクセルがスコスコなのでワイヤーかと思ったら、果たしてその通りだった。ワイヤーのねじが緩んで外れていたのを直したらちゃんと元通り。
そのあと温泉に入って、草津に行って帰った。多分そのあと、中田ヒデのペルージャの試合を見たと思う。日帰りのそういう休日を良く過ごした。